健康志向ブームが高まる中、「トランス脂肪酸」という言葉は認知度が広まり、身近なものへとなってきています。しかし、トランス脂肪酸は「油の一種で身体には良くない油」と何となくイメージはできても、具体的に身体にどのような作用があり、どのような弊害があるのか把握していない人は多いのではないでしょうか。

スーパーに並んでいる商品にも、「トランス脂肪酸含有量は〇mg以下です」と表示されているものも目立つようになってきており、消費者の関心度が分かります。(日本での商品に対してトランス脂肪酸の表示義務はない)

身体に有害だと話題のトランス脂肪酸ですが、本当に「食べるプラスチック」と言われているほど、避けるべきものなのか、確かめていきます。

トランス脂肪酸とは

2015年6月に米食品医薬品局(FDA)は、「3年以内のトランス脂肪酸の一部使用禁止」を発表しました。世界保健機関(WHO)でも、トランス脂肪酸の摂取を全エネルギー摂取量の1%未満に抑えるよう目標値を設定しています。

これらの内容を受けて、トランス脂肪酸は身体にとって有害だと、テレビやインターネットで目にする機会が日本でも増えました。「アメリカで禁止になったということは、相当害があるものなのではないか」と意識する人が増えています。

では、トランス脂肪酸とは何なのか、簡単に説明します。

油は大きく分類すると、常温で固体になっている動物性脂(飽和脂肪酸)と、常温で液体になっている植物性油や魚油(不飽和脂肪酸)に分けられます。飽和脂肪酸には、肉の脂、バター(乳製品の油)などが含まれます。不飽和脂肪酸には、サラダ油(コーン油、ゴマ油、べに花油、大豆油など)、オリーブオイル、魚油が含まれます。

肉の脂などの飽和脂肪酸は、酸化されにくい性質があります。それに対して、植物油や魚油などの不飽和脂肪酸は、酸化されやすいです。

トランス脂肪酸はサラダ油や魚油と同じ不飽和脂肪酸の一種です。しかし、常温で液体ではなく固体です。これは、化学変化によって通常なら常温で液体であるものを無理やり固体に変換しているからです。

では、どのような変化を起こし、液体から固体にしているのでしょう。それは、サラダ油などの不飽和脂肪酸に対して、人工的に他の物質(水素)を結合させ、構造を安定させてしまう(酸化されにくくする)のです。その人工的な水素結合により、液体の油を固化して酸化されにくくします。こうして、トランス脂肪酸は生成されます。

酸化されにくいと長期保存ができ、メーカー側は扱いやすくなります。また、人工的な油ということで、自然な動物性脂よりも安価で売れる点もメーカー側のメリットになります。

「マーガリン」がトランス脂肪酸の代表的な商品です。マーガリンは植物性であるため、動物性のバターよりカロリーが低くヘルシーであると、学校給食でもマーガリンをたくさん使う時代がありました。また、バターに比べてパンに塗りやすいので、冷蔵庫にはマーガリンが常備してあるという家庭も多くありました。

しかし、マーガリンの「固体と液体の中間のような柔らかさ」は人工的な水素添加によって作られています。水素の添加量が多くなれば固いマーガリンが出来上がり、少なくなれば柔らかいマーガリンが出来上がります。

また、人工的な水素添加は120~210℃の高温高圧の中で、ニッケルや銅などの金属を介して反応が行われます。この加工過程は油に金属が残留する危険すらあります。このような「不自然な作られ方で、無理やり性質を変えられた油」ということで、トランス脂肪酸は「食べるプラスチック」と一時期は呼ばれていました。

さらに、「トランス脂肪酸は食品添加物である」といわれてもいました。食品添加物とは、加工や保存の目的で食品に添加して使用するものです。トランス脂肪酸も保存のために人工的に作られているので、食品添加物と目的は同じかもしれません。

しかし、トランス脂肪酸はあくまでも脂肪酸の一種であり、油の加熱によっても自然に生成されるため、食品添加物とは言い切れません。

以上が、トランス脂肪酸の生成方法です。「酸化されにくくなり、価格もカロリーも低くなるということで、消費者にとってもメリットがある油なのでは?」と思われるかもしれません。

しかし、このような「不自然な作られ方により無理やり性質を変えたもの」を体内に入れること自体に違和感があります。では、実際に身体にとってどのような作用があるのでしょうか。

トランス脂肪酸が身体と脳へ与える影響

トランス脂肪酸が「食べるプラスチック」といわれるのは、製造方法が不自然というだけでこのような呼び名がついたわけではありません。身体に対して、一般的な食べ物に比べて負担をかけます。

まず、トランス脂肪酸は構造が人工的なため、体内での消化によけいな労力が必要になります。そのとき、大量のミネラルやビタミンを消費します。

また、「活性酸素を発生させる」「他の脂肪酸の機能を妨げる」「細胞膜に直接悪影響を与える」などさまざまな影響を及ぼします。

この中でも、細胞膜への影響が「私たちの身体や脳の症状を引き起こす原因」として重大です。細胞膜は「細胞に必要な酸素や栄養を吸収する」「細胞内で発生した老廃物を排除する」「情報を伝達する」など、生命活動に必要な機能を担っています。

そして、すべての細胞膜は脂肪酸で構成されます。「どのような脂肪酸で細胞膜がつくられているか」が、身体と脳を健康に保つポイントとなります。

身体に最適な脂肪酸で細胞膜が作られると、細胞膜本来の働きを発揮します。「細胞膜本来の働き」とは、食べ物から消化された栄養や酸素を細胞内へ取り入れたり、発がん性物質やウィルスや細菌など身体にとって不都合なものを細胞内への侵入を防いだりすることです。また、身体を正常に動かすための情報をキャッチする働きも含みます。

このように、身体にとって本来の細胞膜の働きを作り出す脂肪酸として、魚油(DHA・EPA)と植物性油が挙げられます。魚油(DHA・EPA)はオメガ3脂肪酸、植物性油はオメガ6脂肪酸とも呼ばれます。

ただし、植物性油(オメガ6脂肪酸)の過剰摂取には注意が必要です。これらは不飽和脂肪酸(酸化されやすい油)の仲間なので、加熱や光の作用によって酸化してしまうことに注意しなければいけません。

一方、本来の細胞膜の働きを作り出す魚油や植物油脂の脂肪酸に対して、細胞膜の働きを阻害してしまうのがトランス脂肪酸です。

細胞膜にトランス脂肪酸が入り込むと、身体に必要な脂肪酸の入る余地がなくなり、細胞膜の構造や働きが悪くなります。その結果、細胞自体の働きが弱くなり、体にさまざまな悪影響を及ぼすのです。

そうして起こる身体と脳の症状として、生活習慣病(糖尿病、脂質異常症など)、動脈硬化、心疾患(心筋梗塞、狭心症)、がん、精神疾患(うつ病、不安障害)などがあります。

トランス脂肪酸が心臓に及ぼす影響

それらの身体の症状の中でも、「トランス脂肪酸の過剰摂取で悪影響を受ける」とされている病気として心疾患(心筋梗塞、狭心症)があります。心疾患は、体内のコレステロールのバランスが崩れ、起こる疾患です。

本来、コレステロールは身体にとって必要なものです。コレステロールはホルモンや消化液の分泌調節をしています。コレステロールは主に肝臓で作られ、全身の細胞内に入り必要な働きをして、使用済みとなったものは回収されて肝臓に戻ります。

しかし、トランス脂肪酸は肝臓にダメージを与え、コレステロールを調節する機能を崩します。その結果、体内のコレステロールのバランスが崩れます。そこに酸化が加わることで、血管壁に酸化したコレステロールが蓄積され、動脈硬化が進行します。最終的には、心筋梗塞や狭心症などの心疾患へとつながるという仕組みです。

トランス脂肪酸が脳に及ぼす影響

さらに、トランス脂肪酸は身体だけではなく脳にも大きく影響します。脳は60%が油で作られているからです。

身体の細胞膜と同じように、脳内の神経細胞の膜を形成しているのも脂肪酸です。そのため、どのような脂肪酸で神経細胞の膜が作られているかによって、脳内を行き来している情報をキャッチできるかどうかが変わってくるのです。

脳内の神経細胞間を行き来している情報とは、「感情につながる情報」「行動につながる情報」「感覚」などです。このような情報がしっかり伝達されるためには、「神経細胞の中で、オメガ3脂肪酸(DHA・EPAなどの魚油)が20%以上含まれている必要がある」とされています。

さらに、脳内の神経形成に大きな影響を及ぼすのは胎児~乳幼児期であり、妊婦や小さい子供のオメガ3脂肪酸の摂取は特に重要です。

このように脳内の情報伝達にはDHA・EPAなどのオメガ3脂肪酸が重要な役割をするにも関わらず、トランス脂肪酸の摂取量が多いと、神経細胞の細胞膜にトランス脂肪酸が結合し、脳内で正常な情報伝達が行われなくなります。

その結果として現れる症状が、うつ病、精神疾患、アルツハイマー、ADHDなどです。

また、はっきりとした症状としては認識できないにしても、イライラしやすい、緊張や不安が多い、眠りが浅いなどの症状がある場合は、脳内神経細胞の膜が硬くなっていて、情報をキャッチしにくい状態になっている可能性があります。

神経細胞の膜を柔軟にするものはオメガ3脂肪酸(DHA・EPAなど)だけです。それに対して、膜を硬くするものには、トランス脂肪酸、飽和脂肪酸(動物性脂)、オメガ6脂肪酸(サラダ油、加工食品)などといくつか存在します。それらはいずれも、外食やコンビニ食を好む現代人が知らず知らずのうちに過剰摂取している油です。

トランス脂肪酸はもちろんですが、飽和脂肪酸(動物性脂)、オメガ6脂肪酸(サラダ油、加工食品)の摂取も控えるよう意識することが、脳内の情報伝達を滞りなく行え、健康的な日々を送るポイントになります。

トランス脂肪酸を多く含む食べ物

では、身体にも脳内にも有害な作用を及ぼすトランス脂肪酸は、どのようなものに多く含まれているでしょう。

まず、わざわざトランス脂肪酸を人工的に作り、食品に加えるには理由があります。上述にあるように、酸化を防ぎ保存性を高めたり、カロリーを低く抑えて商品の価格を下げたりすることのほか、現代人が好むふわふわサクサクといった食感を商品に加えます。

例えば、クロワッサンやクッキーの食感を思い出してみてください。「サクッ、ふわっ」とした食感が得られます。ベチャっとした食感のクロワッサンを食べるよりも、美味しさを感じられる人が多いのではないでしょうか。これは、製造過程でトランス脂肪酸を発生させる「ショートニング」という加工油脂が含まれているからです。

ショートニングの特徴として、マーガリンと同じように常温で固体となることがあります。揚げ物に使うと、常温で固体なので冷めたときに油が固まって溶け出すことがありません。そのため、作られてから時間が経っていても、サクッとした食感を与えることができるのです。

こうした理由から、市販のお菓子や、菓子パン、総菜の揚げ物、パン粉などにはショートニングが用いられていることが多いです。食べるときにベチャっとして油の感触が強いコロッケと、時間が経ってもサクッとして油っぽくないコロッケがあれば、多くの人がサクッとしているコロッケを選ぶのではないでしょうか。

このように、トランス脂肪酸の害は知っていても、知らず知らずのうちに好んでトランス脂肪酸が含まれた商品を選んでいることは多いです。

また、ショートニングは「ふわっ、サクッ」とした食感以外に、舌触りを滑らかにする作用もあります。そのため、和菓子のあんこや、スーパー・寿司屋で並んでいるまぐろのたたきにもよく入れられています。

以下の写真のように、スーパーのまぐろたたきの原材料を見て、「ショートニング」もしくは「加工油脂(植物油脂)」と記載されている場合は、食感を良くするためにトランス脂肪酸が含まれていると認識してください。

では、私たちが無意識に取り入れている可能性があるトランス脂肪酸は、実際何に多く含まれているのでしょうか。以下、トランス脂肪酸を多く含む食べ物の例を挙げます。

・サラダ油(200℃以上の加熱でさらに増える)

・マーガリン(菓子パン、お菓子にも含まれる)

・マヨネーズ、ドレッシング

・ショートニング(菓子パン、クッキー、ケーキ、チョコレート、スナック菓子、ラクトアイス、レトルトカレー、ピザなどに含まれる)

・コーヒーフレッシュ、植物性生クリーム

・揚げ物

・市販のまぐろたたき

・コンビニ弁当、冷凍食品、加工食品

このように、身の回りにあふれている商品に多く含まれていることが分かります。

「アイスクリーム」は乳製品の飽和脂肪酸で作られています。それに対して、「ラクトアイス」は価格とカロリーを抑えるためトランス脂肪酸を用い、アイスクリーム風の食感を作り出しています。ラクトアイスは、本来アイスクリームを作る際に使われる牛乳も卵もほとんど入っていないものばかりなのです。

ラクトアイスの原材料を見てみると、以下のように初めの方に「植物油脂」と入っているものが多いです。牛乳の代わりに、トランス脂肪酸が含まれる油でアイスクリーム風の味と食感を作り上げているのです。

また、コーヒーフレッシュも同じように牛乳は入っていません。植物油脂と添加物で作られているので、コーヒーにはコーヒーフレッシュを入れない習慣をつけることをお勧めします。

アメリカでは使用規制があるトランス脂肪酸ですが、日本では使用規制、さらにはトランス脂肪酸の表示義務もありません。アメリカではジャンクフードが多く、トランス脂肪酸を含む食品を食べる頻度と量が多いことに比べ、日本は少ないため規制する必要がないとされています。

しかし、上述の通り、身の回りの食品にはトランス脂肪酸が多く含まれていますし、その食品は現代人が好むものが多いです。そのため、自らトランス脂肪酸の害を認識し、自分の身体に入れるべき商品選びを行っていく必要があります。

トランス脂肪酸の表示義務はなくても、原材料の明記は義務付けられています。購入の際に原材料を確認する習慣をつけ、「植物油脂」「加工油脂」「ショートニング」「マーガリン」と記載があるものはトランス脂肪酸が入っている可能性が高いことを認識しましょう。

サラダ油に含まれるトランス脂肪酸

ここまで、トランス脂肪酸の作用に加えて、トランス脂肪酸を含む食品について確認してきました。しかし、「市販の加工品を摂取する頻度が少ないから安心」ということでもないのです。

家庭で調理したものについても、調理の際に使用しているサラダ油にトランス脂肪酸が含まれている可能性があります。

トランス脂肪酸は人工的に水素添加して作られる以外にも、油の加熱などによっても生じます。つまり、「サラダ油を製造する際にトランス脂肪酸が発生している」ということです。

なぜ、サラダ油を作るときにトランス脂肪酸が発生するかというと、それは高温で加熱処理するからです。

油を200℃以上で加熱した際にトランス脂肪酸が発生します。家庭のコンロでの調理では、揚げ物などしない限り200℃を超えることは少ないです。ただ、植物油自体が製造されるとき、200℃を超える高温処理を経て作られるものが多いです。

そのため、スーパーで売られている植物油の多くは、棚に並んでいる時点でトランス脂肪酸を含んでいます。べに花油、コーン油、大豆油、オリーブオイル、米油、なたね油、キャノーラ油などがこれに該当します。

そのようなことから、家庭用調理に使用する植物油は「低温圧搾方法」もしくは「コールドプレス」と記載された油を選ぶようにしましょう。トランス脂肪酸の含有を防ぐことができるうえ、加熱による油の酸化も防がれている油になります。

例えば、以下の写真にあるオリーブオイルは、「Cold Pressed」と表記してあり、低温で圧搾して作られていることがわかります。

まとめ

ここではトランス脂肪酸が作られる工程から、トランス脂肪酸の害、さらにはトランス脂肪酸が含まれる食品について述べてきました。

トランス脂肪酸は「食べるプラスチック」と呼ばれるほど、危険な油という見方がありました。しかし、私たちが食べ物に対して「美味しい食感」「低価格、低カロリー」を求めてきた結果、このようにあらゆる食品にトランス脂肪酸が含まれるという現状になっていることを認識しなければなりません。

確かに、トランス脂肪酸は、身体にとって有害です。細胞を傷つける活性酸素を発生させ、他の脂肪酸の働きを阻害します。さらに、身体や脳にとって不都合なのは、細胞膜に直接悪影響を及ぼすことです。

私たちの身体は約60兆個の細胞が集まって作られています。その全身の細胞を守っている膜が本来の機能を果たせなくなると、身体や脳にとってさまざまな支障が現れます。

膜の機能が弱まると、細胞内に栄養や酸素が運ばれなくなり、逆に細胞にとって不要物は排出できなくなります。また、細胞同士の情報交換ができなくなってしまいます。

トランス脂肪酸だけでなく、飽和脂肪酸(動物性脂)やオメガ6脂肪酸(サラダ油や加工食品)も細胞膜を硬く、機能しにくくする作用があり、控えるべき油ではあります。しかし、これら2種の油は、身体にとって必要な油でもあります。

ただ、必要な油ではあっても、過剰摂取になりやすい油なので、控えることを心掛ける必要があるのです。

一方でトランス脂肪酸には、身体にとって必要な作用が一つも存在しません。

トランス脂肪酸を「食べるプラスチック」という比喩のように意識し過ぎてしまうと、外食を楽しむことができません。しかし、普段の生活でマーガリンやコーヒーフレッシュ、ラクトアイスなど、少し意識するだけで避けられるトランス脂肪酸はたくさんあります。

原材料の確認を習慣化し、「ショートニング」「加工油脂(植物油脂)」と記載されているものは、トランス脂肪酸が含まれているので避けるようにしましょう。

ただ、油の摂取はバランスが大事です。トランス脂肪酸だけ摂らないように意識していても、飽和脂肪酸(動物性脂)を多く含む肉類を大量に食べていては、結局細胞膜は機能にくくなってしまいます。

身体や脳にとって有効な作用をするオメガ3脂肪酸(DHA・EPAなど)を意識的に摂取し、動物性脂と植物性油の過剰摂取を控えましょう。そして、トランス脂肪酸はできる限り身体に入れないようにしましょう。それが、健康的な身体と脳を保つポイントになります。