妊娠中や授乳中は、通常の状態よりも栄養の消耗が大きいため、全体的に必要な栄養量は増えます。妊娠中に特に必要な栄養素として「葉酸」は広く認識されており、母子手帳にも葉酸付加の必要性が記載されています。

他の栄養素(炭水化物やたんぱく質など)は食事量を増やせば妊娠中に必要な量を補いやすいのに対し、葉酸は意識しないと目安量まで増やすことが難しいこともあり、葉酸の必要性が大きく取り扱われるようになりました。

しかし、葉酸のほかに、妊娠・授乳中に意識しないと補えない栄養素として、鉄やオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)などもあります。

ここでは、妊娠・授乳中にどのような栄養を意識して摂るべきなのか、また、妊娠・授乳中にサプリメントを飲んでも良いのかなどを確認していきます。

妊娠中に意識したい栄養

妊娠中はお母さんの栄養がそのまま赤ちゃんの栄養となり、赤ちゃんの身体をつくります。初めは受精卵1つから細胞分裂を繰り返し、徐々に人間の身体へと変化させていきます。そのため、妊娠前に比べてお母さんが必要な栄養は大幅に増えます。

例えば、妊娠後期になるとエネルギー(カロリー)は妊娠前に比べて1日あたり450kcal増やす必要があります。450kcalはハンバーグとご飯半膳食べると摂取できるエネルギーです。

しかし、妊娠中は悪阻(つわり)で食べられなかったり、血糖値が上がりやすかったりと、食事のコントロールが普段よりも難しくなります。妊娠中期からは食欲のブレーキがきかない人も多く、体重管理も妊婦を悩ませる問題の一つです。

「エネルギーを余分に摂らなくてはいけない」と考え、ジャンクフードや炭水化物食品ばかり食べていては良好な細胞が作られません。栄養素としては、たんぱく質や脂質、ビタミン、ミネラルなどを総合的に摂取する必要がありますが、その中でも赤ちゃんとお母さんの身体のために特に意識したい栄養素を以下に紹介します。

①たんぱく質

②オメガ3脂肪酸(DHA・EPA)

③鉄

④葉酸

妊娠中や産後に重要なたんぱく質

①のたんぱく質は身体(細胞)を形成する主成分になります。赤ちゃんの血液や臓器、筋肉を作るためには欠かせません。

また、お母さん自体の細胞をつくっているのもたんぱく質です。妊娠中、出産後も疲れにくい身体をつくるためにはたんぱく質摂取は大切です。また、身体の疲れだけではなく、心の疲れにも栄養は関係しています。

例えば、「産後うつ」になるお母さんが増えています。妊娠中や産後は体力的にも精神的にもストレスが多くかかる状況です。たんぱく質不足が重なると、精神安定に必要な神経伝達物質(ホルモンなど)が作られにくくなってしまいます。

さらに産後、抜け毛に悩む人も多いです。髪の毛を作っているのもたんぱく質であり、抜け毛予防にもしっかりたんぱく質を補っておく必要があります。

たんぱく質は肉、魚、卵、豆製品、乳製品に多く含まれています。妊娠後期には妊娠前に比べ、25gのたんぱく質付加、授乳中は20gの付加が必要とされています(厚生労働省より)。妊娠前に必要なたんぱく質量は50gなので、妊娠後期には75gのたんぱく質量が必要になります。

たんぱく質75g補うためには、1日あたり「豚肉100g+鶏肉80g+卵1個+サバ100g+納豆1パック+ヨーグルト100g」の食品摂取が必要です。それだけの量を摂ろうと思うと、意識して食事をしなければ補いきれません。

麺だけ、パンだけの食事にならず、しっかりたんぱく質を意識した食事を取り入れましょう。その食事で、お母さんと赤ちゃんの心と身体が作られていることを認識することが大切です。

妊娠・授乳中に必要なオメガ3脂肪酸

たんぱく質が妊娠・授乳中に必要なことはイメージつきやすくても、オメガ3脂肪酸が必要であると意識していることは少ないです。では、オメガ3脂肪酸はお母さんや赤ちゃんの身体にどのように影響するのでしょうか。

オメガ3脂肪酸は魚の油(DHA・EPA)やエゴマ油、亜麻仁油に多く含まれています。一般的にDHA・EPAは「血液サラサラになる効果がある」「脳の発達に良い」などと認識されています。しかし、妊娠中に摂取したい理由はそれだけではありません。

DHA・EPAは血管内をしなやかに保ち、中を流れる赤血球の膜を柔軟にするため、血液を流れやすくします。そして、身体に必要な栄養や酸素は血液によって運ばれます。

同様に、胎内に栄養や酸素を運ぶのも血液です。胎児はお腹の中で育つため、外の酸素を直接吸うことも、直接食事をすることもできません。お母さんの胎盤から血液を通して酸素や栄養をもらいます。そのため、血流が良い状態でないとしっかり栄養や酸素が胎児まで届きません。

また、妊娠中、産後は精神的に不安定になりがちです。それは、赤ちゃんに多くの栄養を送っているため、お母さんの身体のビタミンやミネラルが不足しがちになるからです。精神的な安定には、脳内での神経伝達に関わる物質がしっかり作られる必要があります。その脳内物質が感情のコントロールに深く関わっています。

DHA・EPAは、脳内で作られた感情コントロールに関わる物質をしっかり機能させるために欠かせません。脳内にある神経細胞の膜をDHA・EPAが柔軟にすることで、感情などの情報を伝達しやすくするのです。その結果、イライラや不安などの感情を抑え、心を穏やかに保つことにつながります。

さらに、DHA・EPAは妊娠高血圧症、妊娠糖尿病を予防します。妊娠中は、普段の状態より血圧や血糖値が上がりやすくなります。妊娠高血圧症や妊娠糖尿病になると血流が悪くなり、難産になりやすいとされています。DHA・EPAは血液の流れを良くするため、高血圧や高血糖を予防します。

このように、オメガ3脂肪酸(DHA・EPA)はお母さんと赤ちゃんの健康を考えるのであれば、意識したい脂肪酸です。

また、脂肪酸の種類はたくさんあり、身体にとっては控えたい脂肪酸も存在します。肉などに多く含まれている長鎖飽和脂肪酸や、サラダ油に多く含まれているオメガ6脂肪酸が摂取を控えたい脂肪酸です。お母さんの体内にどのような脂肪酸が多いのかは、普段の食事で変わってきます。

そして、どのような脂肪酸が多いかで体質が異なってきます。その脂肪酸の割合は、そのまま赤ちゃんの体内にも移行します。そのため、身体に良い働きをする脂肪酸(オメガ3脂肪酸)を意識して摂取することが重要になります。

妊娠中に特に意識したい鉄について

妊娠中に意識したい栄養素の3つ目は鉄です。鉄はミネラルの一種であり、大豆製品、海藻、赤身肉や赤身魚、レバー、緑黄色野菜に多く含まれます。

妊娠中は、出産に伴う大量の出血に備えて、血液が多く作られます。このとき、血液の中の赤血球を作るためにより多くの鉄が必要になり、体内に鉄不足があると貧血症状を起こします。貧血症状には、疲れやすい、頭痛、めまい、冷えなどがあります。

さらに、妊娠中の鉄不足は母乳にも影響します。出産後、母乳は血液から作られるため、鉄不足があると母乳の分泌も悪くなります。

通常時の女性(18~49歳・月経あり)の1日当たりの鉄摂取推奨量は10.5mgであるのに対し、妊娠中期以降には21.5mg必要になります。毎回の食事でしっかり鉄の摂取を意識しましょう。

ただ、鉄は食事から補おうとしても吸収率が低い(5~25%)という欠点があります。ビタミンC(野菜や果物)、たんぱく質(肉、魚、卵など)とともに摂取すると吸収率が高まるため、バランス良く食品を食べるようにしましょう。

また、レバーは優秀な鉄含有食品ですが、妊娠初期には過剰摂取を控えたいビタミンAが多く含まれているため、レバーの食べ過ぎには注意が必要です。

葉酸サプリメントで気を付けたいこと

妊娠を希望するなら妊娠前から意識したい栄養素として「葉酸」は有名です。厚生労働省からも「妊娠を計画している女性、または、妊娠の可能性がある女性は、神経管閉鎖障害のリスクの低減のために、付加的に400μg/日のプテロイルモノグルタミン酸(葉酸)の摂取が望まれる」と発表されています。

これは、欧米で行われた大規模な疫学研究の結果から、「受胎前後における十分な葉酸の摂取が、胎児の神経閉鎖障害の発症リスク低下させる」とされているからです。世界各国で妊娠を希望する女性に対して、サプリメントなどの栄養補助食品からの葉酸摂取が勧告されました。

しかし、葉酸のサプリメントは数多くあり、選ぶ際は注意が必要です。葉酸は天然葉酸(フォレイト・アシッド)と合成葉酸(フォリック・アシッド)に分かれます。一般的に天然葉酸は吸収率が低く(50%)、合成葉酸は吸収率が高い(85%)とされています。

そのため、ほうれん草などの食品から摂取する葉酸は、合成のものに比べて体内で栄養素として利用されにくいという特徴があります。厚生労働省が推奨しているものは、吸収率が高い合成の葉酸(栄養補助食品など)です。

ただ、「合成葉酸サプリメント摂取は乳がんや大腸がんの発症リスクを高める」「妊娠中の合成葉酸サプリメント摂取は、胎児の先天性の喘息を発症させる」という報告もあります。

葉酸のサプリメントを購入する際、どのように「天然」か「合成」かを見極めるかというと、原材料を確認します。原材料に「パセリ抽出物(葉酸)」など記載されているものは天然由来の葉酸です。「葉酸」としか記載されていないものは、材料も合成の可能性が高くなります。

また、葉酸は天然の形のままサプリメントにすると栄養が壊れやすいため、サプリメント加工時には合成加工してあるものがほとんどです。理想の葉酸サプリメントは「パセリなどから抽出した天然由来の葉酸をその後加工して合成型に変えたもの」です。

なお、海外から個人輸入する場合は、以下のように合成と天然の割合が記載されていることがあります。

上のサプリメントは「Folate 667mcg中、Folic 400mcg」と記載されているため、天然葉酸667のうち、合成葉酸が400含まれていることが分かります。

妊娠中に毎日サプリメントを摂取するのであれば、化学的に合成されたサプリメントよりも天然のものから抽出された葉酸サプリメントを選ぶことをお勧めします。さらに、緑黄色野菜や果物に多く葉酸は含まれていますので、食品からの摂取も心掛けましょう。

授乳中に意識したい栄養

妊娠中の栄養強化はもちろんですが、授乳中の栄養もしっかり強化したいものです。お母さんの血液から乳腺を通って母乳は作られます。血液が赤色なのに対して母乳が白色なのは、血液中の赤血球が母乳になる際に取り除かれるからです。

「授乳中にお餅を食べると母乳が詰まる」「高脂肪なものは食べない方が良い」など、授乳中の食事についてはいろいろ言われていますが、そこまで神経質になることはありません。確かにお母さんの血液は良好に保つ必要があるため、食事のバランスは必要になります。

穀類(米)・肉・魚・卵・豆製品・乳製品・発酵食品・緑黄色野菜・淡色野菜・海藻・果物・きのこなどの食品をまんべんなく摂取することが、良い血液を作る基本になります。

特に妊娠授乳前から不足しがちになりやすい鉄やカルシウムは、授乳によってさらに不足にならないように、緑黄色野菜や大豆製品の摂取を意識しましょう。

バターや揚げ物など高脂肪のものを食べても母乳が詰まることはありませんが、サラダ油(植物油脂)や加工油脂、酸化油脂(調理してから時間が経っているもの)の過剰摂取は血液を良好な状態に保ちません。授乳中でなくても、控えるべき油なのです。

逆に、DHA・EPAなどのオメガ3脂肪酸は、血液の状態を良好に保ち、栄養素をしっかり乳房に届けるためには必要です。また、上述の通り、お母さんの産後うつを防ぐためにも、DHA・EPAの摂取を心掛けましょう。

妊娠中・授乳中はサプリメントを飲んでも良いのか

妊娠・授乳中に栄養強化が必要なことは理解したものの、食品だけでは補え切れない場合もあります。特に産後は、慣れない赤ちゃんのお世話だけでも大変なのに、毎日の栄養バランスまで考えるのは負担が大きいです。

そこでサプリメントに頼りたいけど、妊娠・授乳中にサプリメントを飲んで良いか心配になる人もいるかと思います。

基本的に妊娠中でも授乳中でもサプリメント摂取には問題ありません。しかし、ビタミンAの過剰摂取は気を付ける必要があります。ビタミンAは動物性食品(レバーなど)に含まれる「レチノール」と、植物性食品(人参など)に含まれる「βカロテン」があり、控えるべきなのはレチノールです。

レチノールは肝臓に蓄積され、体外に排出されにくい特徴があり、胎児の奇形が発生するリスクが高まるとされています(厚生労働省より)。そのため、マルチビタミンなどのサプリメントを摂取する際は、レチノールがもとになっているビタミンAが含有されているものは避けるべきです。

また、鉄や葉酸などはサプリメントとして栄養素単独で摂取するよりは、「マルチビタミン」「マルチミネラル」のように総合的な栄養素を摂取できるものを選ぶと良いです。

栄養素は互いに作用し合って初めて体内で働くことができます。単独の鉄だけサプリメントで摂取していると、体内で他のミネラルとのバランスがとれません。総合的に入っているものを選び、ビタミンAと葉酸の原材料もしっかり確認しましょう。

さらに、DHA・EPAも妊娠を考えている段階でサプリメントから摂取することをお勧めします。DHA・EPAは毎日魚料理を食べるのであれば摂取目安量を補えます。しかし、魚(特に大型魚)に含まれている水銀が胎児に蓄積される可能性があるため、厚生労働省は妊娠中の女性に対して魚の摂取について注意喚起しています。

特に大型の魚といわれているマグロやカツオなどに水銀は含まれやすいです。大人であれば水銀は排出できますが、胎児はできないとされています。

そのため、特に妊娠・授乳中は魚であれば中型、小型魚を選び、DHA・EPAのサプリメントも上手に取り入れていきましょう。サプリメントを選ぶ際は、原材料の魚から水銀が除去してあるものを選ぶことが重要になります。

厚生労働省から目安量とされているDHA・EPA量は1000mg/日です。この量はイワシなら2尾、サンマで1尾、ブリの切り身であれば1枚を毎日食べる必要があります。普段の食事で食べる魚料理と比較し、あまり魚を食べないのであれば600mg以上摂取できるサプリメントを選ぶと良いです。

また、DHA・EPAは体内で酸化しやすいため、酸化防止の栄養素が入っているサプリメントを選ぶこともポイントです。油は加熱・空気・光で酸化し、酸化した油は過酸化脂質となり、細胞の働きを阻害します。血液の流れも悪くするため、妊娠高血圧症や妊娠糖尿病にもつながりやすくなります。

DHA・EPAは妊娠中に欠かせない油ですが、魚料理であれば調理したてを食べ、サプリメントであれば抗酸化物質(ビタミンEやアスタキサンチン)が含有されているものを選ぶようにしましょう。

栄養摂取の基本は食事となりますが、妊娠・授乳中は普段に比べて栄養素の需要が増える上に体力的な負担も大きく、料理をすることが難しい場合も多いです。そのようなとき、サプリメントから栄養を補うことも手段の一つとなります。

まとめ

ここでは、妊娠・授乳中に強化したい栄養素と、サプリメントの利用法について確認してきました。

妊娠中の食事では、赤ちゃんの正常な成長のために栄養のバランスがとても大事になります。さまざまな食品をまんべんなく食べるようにしましょう。特に、鉄や葉酸、たんぱく質が不足しがちになります。魚、肉、卵、緑黄色野菜など積極的に摂り入れるようにしましょう。

また、良好な血液を作り、お母さんの精神状態を健康に維持するためにはDHA・EPA(オメガ3脂肪酸)の摂取が欠かせません。

楽しんで食事することがお母さんにも赤ちゃんにも一番大事になります。食事中からの鉄や葉酸、DHA・EPA摂取が難しいのであれば、サプリメントの利用も考慮しましょう。その際、鉄や葉酸は総合的にビタミン・ミネラルが入っているものを選び、ビタミンAと葉酸の原材料には気を付けましょう。

バランスの良い食事とDHA・EPAの積極的摂取で妊娠中や産後の落ち込みを予防し、楽しい妊婦生活を送りましょう。