身体を健康に保つには、「魚の摂取が大事である」という認識は多くの世代で広がっています。

しかし実際は、魚の摂取について理想と現実の差が出ています。1400人を対象にしたアンケートでは、理想は「健康のために魚を週3日以上は食べるべきだ」と88.3%の人が答えていることに対し、現実は「週2回以下しか魚を食べない」と62.2%の人が答えています。(2015年 サントリー調査)

多くの人が、健康のためにたくさんの魚の摂取を理想としていても、現実では摂取できていないということが分かります。では、このように理想と現実の差が大きく現れるのはなぜでしょうか。

「骨を取るのが面倒」「魚をさばくことができない」「魚の調理法が分からない」「臭いが苦手」「価格が高い」などと、魚の摂取頻度が低下する要因には、このような理由が挙げられます。

こういった魚の摂取率を下げている要因を補ってくれているものが「魚の缶詰」です。魚の缶詰の優秀さがテレビで取り上げられるようになり、「毎日サバ缶を食べている東大生」「魚の缶詰でダイエットに成功」などと放送されると、次の日のスーパーからは魚缶が消える事態が起きています。

一方で、「缶詰にされた魚は身体に良くないのではないか」「缶詰を食卓に出すなんて手抜きをしている感じがする」という声もあります。

では、魚の缶詰について、その製造方法から効率的なDHA・EPAの摂取法まで確認していきます。

魚の缶詰の種類

魚の缶詰にはいくつかの種類があります。まずサバ、サンマ、イワシなどの魚の種類が豊富です。さらに、水煮缶、味噌煮缶、オイル漬けなど味付けの種類も多く、スーパーの缶詰コーナーで、どんな缶詰を買おうか迷う人は多いかと思います。

水煮缶とは、材料が魚と水と塩だけのシンプルな味付けのものです。味噌煮缶や醤油缶のように調味料で味がついている場合は、味噌、砂糖、塩、ものによっては化学的旨み調味料なども入れられていたりします。

また、オイル漬けとは、味付けのための調味料と油が入っている缶です。入れられている油は植物油脂(サラダ油)です。有名なもので、ツナやアンチョビがあります。

他にも、かば焼き缶、トマト煮缶、レモン味缶、にんにく入り缶など、バラエティ豊かな味付け缶が売られています。さまざまな種類の缶詰ですが、どのような基準で手に取っていけばよいのでしょうか。

魚の缶詰の製造方法

まず魚の缶詰の製造方法からわかる、缶詰の品質を確認していきましょう。

魚の缶詰といえば、「魚に味をつけてから缶に入れて封をする」とイメージしている人が多いかもしれません。しかし実際は逆なのです。

魚の缶詰の一般的な製造方法は、原料→下処理・カット→詰込→注液→脱気→密封→加熱殺菌→冷却→完成という工程で作られています。

缶詰作りの一番重要であるところは、原料の厳選です。この段階で高品質なものを選ばないと「美味しくて安全で栄養価の高い缶詰」になりません。

そのため、できる限り新鮮な魚を短時間で缶詰にすることが重要なポイントとなります。原料の良し悪しは缶詰自体の価格に影響します。国内で旬の時期に水揚げされた魚に、天日塩(精製されていない塩)などで調理してあるものは、魚も調味料も厳選されているということで、価格も高価になります。

一方、缶詰の原材料に「調味料(アミノ酸等)」と表示がある場合は、化学調味料で旨みをプラスしてあるものです。また、「食塩」との表示は、天日塩ではなく精製された塩を意味します。以下の写真が参考になります。

また、冷凍魚を缶詰の原料としているものもあります。現在は冷凍技術の進歩もあり、旬の時期に水揚げされ、新鮮な状態で急速冷凍された場合は、味も栄養価も生の魚からの加工と大差ありません。

ただ、冷凍の仕方が良くない状態のものを原料に使うと、解凍した際にドリップという水分がでます。ドリップは魚臭さの原因になるので、破棄してから缶詰の原料として使います。しかし、破棄するドリップには魚の旨味や栄養素もいっしょに溶け出しているのです。

そのため、缶詰にした際に旨みが欠けたものとなってしまうことで、化学調味料の旨みで美味しさを補って商品にしてある場合もあります。そういったことも考慮すると、原材料に「調味料(アミノ酸など)」が記載されているかどうかの確認は、良質な原料が用いられているかどうかの判断基準にもなります。

原料を下処理し、カットしてから調味料を注液し、その後脱気と密封の行程があります。この2工程によって、缶詰の真空状態が作られ、空気、水、細菌を完全に遮断することができます。

こうして食中毒の原因になる空気、水、細菌を遮断しているので、保存料が入っていなくても魚の質を保つことができるのです。

その後、100℃以上で加熱することによって、缶詰の中の微生物や細菌を完全に死滅させ、長期保存が可能な状態にします。殺菌と同時に、加熱することで魚が調理されます。缶詰一つ一つが小さな圧力鍋のような役割を果たし、加熱することで骨まで柔らかい魚となります。

最後に品質の変化を防ぐため急速冷却し、缶詰は完成します。

缶詰の栄養価

魚の摂取が健康的な身体を保つために必要とされている理由には、魚の油(DHA・EPA)が身体と脳にさまざまな有効な働きをするからだといわれています。DHAはドコサヘキサエン酸、EPAはエイコサペンタエン酸のことを指し、これらはオメガ3脂肪酸という油の一種です。

DHA・EPAは大きく分けて2つの働きをします。1つ目は、体内の炎症の慢性化(炎症が長く続くこと)を抑制します。

老化、ストレス、砂糖・控えるべき油(植物油脂、加工油脂)の摂り過ぎ、体内の酸化などにより、身体の血管内や粘膜に炎症が起きます。炎症が長く続くことによって、血栓、糖尿病、高血圧、腸炎、がん、うつ病、花粉症(アレルギー症状)、認知症などにつながります。

そういった体内の炎症が長引くことを抑制するものが、DHA・EPAと呼ばれる魚の油です。

2つ目は、細胞の膜の柔軟化です。私たちの身体は何十兆個もの細胞が集まって作られています。その細胞一つ一つは膜で囲まれており、膜を作っているのは油です。

細胞の膜は「栄養と酸素の取り入れ」「老廃物の排出」「情報の伝達」と、私たちが健康的に生きていくうえで重要な働きをしています。情報の伝達とは、気持ちと行動をつなげたり、感情や感覚をコントロールしたりします。

細胞の膜が柔軟であれば、これらの細胞膜本来の働きをしてくれます。しかし現代人の多くは、細胞膜を硬くしてしまう油(植物油脂、加工油脂、加工食品)の過剰摂取で、本来の働きができない細胞膜の状態となってしまっています。

その結果、うつ病、頭痛、冷え、下痢便秘などあらゆる症状での悩みが増えています。

細胞膜本来の働きを引き出し、細胞を守るものがDHA・EPAです。

このようにDHA・EPAは、身体と脳を健康的に保つために非常に重要な役割を果たすということで、厚生労働省では1日の摂取目安量を定めています。

1 日あたりに摂取したいDHA・EPA量は1000mgとしています。さらに、DHA・EPAを含むオメガ3脂肪酸の摂取目安量としては、1日あたり2100mgとしています。(39~49歳・男性の場合)

この量を魚から摂ろうとすると、サンマであれば1尾、イワシであれば2尾、ブリ切り身であれば1枚などを毎日食べる必要があります。

さらに、魚を調理してDHA・EPAを加熱すると、生の状態に比べDHA・EPAは2~5割ほど減少してしまいます。そのため、家庭での魚の調理だけで毎日必要とされるDHA・EPAを摂取しようとすると、相当な量の魚を摂取しなくてはなりません。

また、DHA・EPAは非常に酸化しやすい性質をもちます。酸化を促進させるのは、加熱・空気・光です。家庭で調理して時間が経てば、その魚に含まれているDHA・EPAは酸化してしまいます。当然、スーパーなどの調理済の魚惣菜は酸化していることになります。

酸化されたDHA・EPAは細胞を傷つけ、身体にとって有害なものとなります。そのため、魚の摂取には酸化に対しての注意が不可欠となります。

このように魚を家庭で調理して食べるときには、調理によるDHA・EPAの損失、さらにDHA・EPAの酸化について考慮が必要です。ただ、これらの考慮を必要としないものが、魚の缶詰なのです。

上述の通り、魚の缶詰は真空状態で作られており、光からも遮断されています。加熱はされていますが、空気がない状態で加熱されているので、酸化しようがありません。また、調理によってDHA・EPAが魚から流れ出たとしても、缶詰の汁の中に残っています。

DHA・EPAの酸化と損失の心配がない魚の缶詰は、身体の健康面を考えると大変優れている食品といえます。

魚の缶詰にはどれだけのDHA・EPAが含まれているか

では、DHA・EPAの摂取には優れている魚の缶詰ですが、実際どのぐらいのDHA・EPA量が含まれているのでしょうか。以下では缶詰ごとのDHA・EPA含有量について記します。

魚缶詰のDHA・EPA含有量(可食部100gあたり)

DHA(mg) EPA(mg) 合計
まいわし水煮 1400 1100 2500
サバ味付け 1300 1100 2400
しろさけ水煮 400 240 640
さんま味付け 1700 1000 2700
まぐろ油漬け 150 77 227

上の表のまぐろ油漬けとは、いわゆる「ツナ」のことを指します。ツナ缶のみ、缶の汁中も含めたDHA・EPA量になります。他の缶は、可食部100g当たりの含有量です。

缶詰のDHA・EPA含有量は魚によって差がありますが、まいわしやサバ、さんまなどの缶詰を1日に100g食べれば、オメガ3脂肪酸の摂取目安量を補えることが分かります。缶詰内容物の重さは、それぞれの缶に記載されているので、確認しながら食べると良いでしょう。

このように、缶詰の魚だと、DHA・EPAの酸化や損失の心配がない上に、手軽に1日の摂取目安量が摂れるのです。

また、缶詰の魚は骨まで食べられることに疑問を抱いている人もいるかと思います。これは、缶詰をつくる際に圧力をかけられて高温で殺菌されるため、骨を作っている成分が分解されるからです。

骨はカルシウムとコラーゲンでできています。コラーゲンがカルシウム同士の接着剤の役割をし、固い骨を形成しています。高温高圧加工によって、コラーゲンが骨から溶け出し、骨はカルシウムだけになります。カルシウムだけになった骨は強度が弱く、ボロボロの状態になります。

こうして、「缶詰の魚は骨まで食べられる状態」となっているのです。骨まで食べることで、カルシウムも豊富に摂り入れることができます。

「魚の骨を取るのが面倒」と感じている人は、骨をそのまま食べることができる缶詰を活用しましょう。

缶詰のデメリット

ここまで、魚の缶詰の優れた点ばかりを述べてきました。では、缶詰にデメリットはないのでしょうか。魚の缶詰が健康のために良いからといって、毎日食べていても問題はないのでしょうか。

上述の通り、魚の缶詰にはさまざまな味のバリエーションがあります。味付けを変えれば毎日でも食べ続けられそうです。

しかし、味噌煮缶や醤油缶などは、味付けの調味料として味噌や醤油のほかに砂糖を多量に使っています。調味料の中で、味噌や醤油よりも砂糖の方が多く入っている味付け缶は多いです。

健康のためにDHA・EPAを摂り入れているつもりでも、知らず知らずのうちに砂糖の摂り過ぎになっている可能性があります。

また、水煮缶には食塩が多く含まれています。缶詰の汁にはDHA・EPAが溶け出しているので、汁ごと摂取することが望まれます。しかし、汁を全て飲むと塩分や糖分を過剰に摂取することになります。

缶詰をそのまま食べるのも良いですが、さまざまな料理に魚缶を汁ごとプラスすることで、他の調味料を少量使うだけで料理が仕上がります。汁を他の料理の味付けに用い、体内に摂り入れる塩分・糖分の量を調節しましょう。

また、ツナなどのオイル漬け缶に用いられている油は植物油脂です。植物油脂は体内ではDHA・EPAと逆の働きをするため、摂取を控えたい油です。健康のためには、オイル漬け缶の摂取も控えるようにしましょう。

糖分や塩分のことを考慮すると、やはり「DHA・EPAの摂取を毎日缶詰から摂取すること」は控えることをお勧めします。家庭での魚の調理を取り入れつつ、手軽で効率的な缶詰を上手に利用すると良いでしょう。それでも魚の摂取が見込めない日は、サプリメントでのDHA・EPA摂取は有効な手段になります。

缶詰といえば、「内側から金属の成分が中身に溶け出さないか」という心配の声もあります。缶の内側は、貯蔵中の金属変化を防ぐために塗装されています。その塗装にポリ塩化ビニルやエポキシ樹脂などが使われているものがあります。

この「塗料から溶け出すBPA(ビスフェノールA)に問題があるのではないか」とされているのです。BPAはいわゆるダイオキシンや殺虫剤と同じ内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)です。

缶詰は長期保存を目的として作られているので、缶中の食品に多くBPAが溶け出すということです。

BPAについてはさまざまな研究調査がされており、各諸外国でも対応はさまざまです。デンマークでは使用を禁止しています。日本でも使用基準は設定されています。

近年の研究では、「BPAの少量の摂取でも、神経や行動、乳腺や前立腺などでの影響が認められる」との報告があり、アメリカやカナダでは乳幼児への影響を懸念しています。ただ、この調査結果は動物を対象にしたものであるため、人間に対してはどうなのかという曖昧さがあります。

特にトマト缶や缶コーヒーなどは酸によりBPAが溶け出しやすいとされています。缶詰の内側の塗装以外にも、プラスチック製の哺乳瓶やカップ麺など発泡スチロールの容器、弁当箱、サランラップなどからもBPAが溶け出すことが確認されています。

ただし、BPAの健康被害に対しては、はっきりとした結論が出されていないのが現実です。厚生労働省からも、「BPAの健康被害に対してはいまだに不明な点が多く、今後の研究結果の進展が必要」とされています。

そのため、缶詰を毎日1個以上食べ続けるという食べ方をしなければ、あまり過敏になる必要もないでしょう。

また、現在ではBPAが溶け出しにくいポリエステルフィルムをラミネートしたものや、エポキシ樹脂フリー(BPAフリー)の缶詰商品も増えています。

缶詰自体に「BPAフリー」の記載はありませんが、各食品メーカーのホームページなどで確認すると、BPA対策について記載してあるメーカーもいくつかあります。そういった確認をしたうえで商品を選択すると、より安心です。

栄養価や品質については優秀な魚の缶詰ですので、何の心配もすることなく摂取するには、BPAフリーの商品を選ぶようにすると良いでしょう。

缶詰開封後の保存方法

ただ、缶詰開封後の保存方法にも注意が必要です。缶詰は封がしてあるうちは、空気や光が入り込むことなく品質は保たれます。しかし、開封したとたんに酸化が始まります。

開封して食べきれなかった場合は、違う容器に移し冷蔵庫で保管したうえで、2日以内には食べきるようにしましょう。

缶詰の魚を使ったアレンジレシピ

缶詰自体をそのまま食卓に出すことに手抜き感がして躊躇するとき、また、おかずの一品として料理にしたいというときには、缶詰を利用してさまざまなアレンジが可能です。

また、アレンジに用いることで、缶詰の汁の中に含まれている栄養素も摂取することができます。

例えば以下のようなものがあります。

<サバの卵とじ>

サバの水煮缶を汁ごと鍋に移し、少量の醤油と砂糖で味を整え、溶いた卵でとじます。最後にネギを散らせば出来上がりです。

<サバ入りパスタ>

フライパンにみじん切りにしたニンニクとオリーブオイルを入れ、ニンニクの香りを出します。その後ピーマンやトマトなど好きな野菜を炒め、塩コショウを入れます。茹でたパスタと、サバ缶を入れ、ケチャップとオイスターソースで味を整えれば、出来上がりです。

また、フライパンや鍋を使わないアレンジもできます。小鉢に水煮のサンマを取り出して、大根おろしと大葉をのせ、ポン酢をかけるだけでも立派な一品となります。炊き込みご飯の具として用いることもできますし、あらゆるアレンジが楽しめます。

まとめ

ここでは魚の缶詰の「優秀さから注意すべき点」までまとめてきました。

うつ病などの精神疾患、がん、アレルギー、アルツハイマーなどに悩む人が増えている現代では、細胞膜を正常に保ち、身体中の炎症を抑制するDHA・EPAの摂取が欠かせません。

DHA・EPAが体内で有効な作用をするように摂取するには、それらの酸化を防がなければなりません。そのため、家庭での魚の調理は、DHA・EPAの酸化や加熱調理による損失に対しての考慮が必要です。

魚の缶詰であれば、酸化と損失の心配がなくDHA・EPAを摂取でき、1日に必要なオメガ3脂肪酸の摂取量を手軽に補えることが分かりました。

また、面倒な骨を取る作業や、魚の下処理、臭いといった難点も、缶詰の利用で解決することができます。

しかし、身体の健康を考えて魚の缶詰を取り入れるなら、缶詰からの糖分塩分の過剰摂取、また、BPA溶出を考慮する必要があります。こうしたことに注意をしながら、魚の缶詰活用を楽しみましょう。