うつ病含む精神疾患は、今では現代病とも呼ばれ、患者数は増える一方です。平成26年では約392万人が精神疾患を訴え専門医療機関を受診しており、精神疾患の中でも内訳がもっとも多いのは「うつ病」です。

また、うつ症状に悩んでいても、専門医療機関の受診をしていない人は、受診している人よりさらに多いのが現状です(厚生労働省データより)。

日本人口の4人に1人がうつ病、もしくはその前段階の状態であるといわれています。ただ、こうした精神疾患は魚の油として知られるDHAやEPAが効果的だといわれています。

例えば「魚介を多く食べる人は、そうでない人と比べてうつ病の発症率が半減する」という疫学調査結果を国立がん研究センターと慶応大のチームが出しています(2017年9月)。

そして、オメガ3脂肪酸に分類されるDHA・EPAの摂取量が多いと、うつ病の発症率が低くなる傾向があるとされています。そこで、DHA・EPAと精神疾患の症状がどのように関わり合っているのかについて、確認していきます。

神経伝達物質が精神疾患に関与する

うつ病や不安障害などは心の健康(メンタルヘルス)問題として一般的です。厚生労働省から企業に対して「ストレスチェック」が義務化されたり、多くのテレビ番組で精神疾患の改善法が取り上げられたりと、心の健康問題は国をあげての課題となっています。

精神疾患の症状としては、食欲がない、眠れない(不眠)、何をするにも楽しくない、憂うつな気分が続く、やる気がでない、緊張状態が続く、不安が強いといったような心の状態だけではありません。めまい、頭痛、吐き気、腹痛など身体の症状としても現れます。

例えば、「眠れない・不眠」はうつ病の症状の一つとして認識されています。では、「眠る」という一つの行動をみていきましょう。身体のどんな部分が働くことにより、眠ることができるのでしょうか。

脳の中の仕組みから学んでいきます。脳の働きを理解することで、どのようにDHAが精神疾患の症状と関わっているのかが理解できます。

脳の中には、神経細胞が千数百億個存在しています。その神経細胞を島に例えると、島から島へ情報を運んでいる船が100種類ほど存在します。その船のことは、神経伝達物質と呼ばれています。神経伝達物質としては、セロトニンやドーパミン、GABAなどが有名です。

神経伝達物質が「どのような情報を神経から神経に運んでいるのか」というと、それは快感や楽しさ、やる気、緊張、恐怖、不安などです。また、行動にうつすための情報も運んでいます。神経同士で情報をキャッチすることによって、「さぁ寝よう! 」などのように考え、眠るという行動につながるのです。

「眠る」という行動ひとつでも、これらの神経伝達物質の分泌のバランスがしっかりとれていることが必要になります。

100種類ある神経伝達物質は大きく分けると、興奮系(快感、やる気、緊張、不安など)、抑制系(リラックスなど)、調整系(興奮と抑制の分泌量を調整する)の3種類に分けられます。この3種のバランスがしっかりとれていることで、寝ようと思ったときに眠ることができるのです。

精神疾患は症状によって、何の神経伝達物質が不足しているのか、過剰になっているのかが違ってきます。

何をしていても楽しくない、やる気がでない症状が強い場合、興奮系の神経伝達物質が不足している可能性が高いです。例えば、うつ病では神経伝達物質のドーパミンやノルアドレナリンが不足することで、「意欲がない」「朝からだるくて行動できない」といった症状が起きます。

また、不安緊張が強く、パニックを起こすことがあるなどの症状が強い場合では、抑制系の神経伝達物質が不足している可能性が高いです。

例えば、パニック障害ではGABA(リラックスなど、抑制系の神経伝達物質)が不足することで、不安緊張が強まり、発作につながることが多いです。処方薬の抗不安薬はこのGABAの働きを強くします。抗不安薬で効果を感じられた人は、GABA不足によって症状が引き起こされていたといえます。

また、調整系のセロトニンはあらゆる症状で不足している場合が多いです。実際、うつ病でもセロトニン不足が大きく関係しているといわれています。

抗うつ剤として用いられるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、セロトニンの働きを強める薬です。その薬の効果を感じられる人が多いことから、うつ病の症状とセロトニン不足は関係しているといえます。

このように脳内の神経伝達物質のアンバランスが、うつ病をはじめあらゆる精神疾患の症状につながっているといわれています。

DHAは脳内でどう働くのか

私たちが食べたものの栄養から神経伝達物質はつくられます。また、運動や太陽の光など他の生活習慣の影響も受けることで、しっかり情報を運ぶことができます。

ただ、神経伝達物質がたくさん作られていても、受け取り側の神経細胞が情報をガチっとキャッチしてくれないと、運ばれてきた情報は受け取れず跳ね返されてしまいます。

受け取り側の神経が情報を上手にキャッチしてくれるかどうかで、しっかり感情を感じられるか、さらには行動できるかが変わってきます。

受け取り側の神経にいる受取人(細胞)のことを「受容体(レセプター)」と呼びます。そして「神経細胞からの情報を受容体がしっかり受け取ることができるか、跳ね返してしまうのか」の鍵を握っているものがDHAなのです。

脳の神経細胞は膜で囲まれています。その膜を硬い膜にするか、柔らかい膜にするかで、受容体の状態は変わってきます。柔らかい膜で神経細胞が囲まれていると、運ばれてきた情報をキャッチしやすいのです。このとき、柔らかい膜をつくるのがDHAです。

脳での情報伝達を活性化するには

脳は60%が脂質で構成されています。例えば、脳の神経細胞の膜をつくっているのが脂質です。食事からどのような脂質を摂取するかで、神経細胞の膜の質が変わってきます。

上述の通り、柔らかい膜をつくるのが、オメガ3脂肪酸の一種のDHAです。

神経細胞の膜を柔らかくすることで、神経伝達物質により運ばれてきた情報を受け取りやすくなります。受容体がしっかり情報を受け取ることで、気持ちのコントロールができたり、モチベーションが保たれたりします。また、食事や睡眠もスムーズにできます。

どのようなときに情報が伝わるかというと、神経伝達物質がピタッと受容体におさまったときだけです。そのため、DHAが多く含まれている「柔らかい膜」であるほど、受け取る瞬間に柔軟に受容体の形を変えることができ、情報を取り込むことができるのです。

これはキャッチボールを思い出せばいいです。硬直した、まったく動かないグローブでボールをキャッチするのは難しいです。

一方で柔軟性のあるグローブであると、ボールがグローブの中に入った瞬間にボールを包み込む(力を入れてボールがグローブから離れないようにする)ようにできます。これと同じように、柔軟性が高い神経細胞の膜ほど物質(情報)をキャッチすることができます。

うつ病であれば、セロトニンやドーパミンなどの分泌量のバランスが崩れることで症状が起こります。そこで、DHAによって膜が柔らかくなれば、運ばれてきたセロトニンやドーパミンを跳ね返すことなく、受容体から神経細胞に取り入れられ、「やる気がでない」「憂うつな気分が続く」などの症状の改善につながるのです。

そのため、DHAが少なかったり、膜を硬くしてしまう脂質を多く摂取したりしていると、せっかく情報(神経伝達物質)が運ばれてきても、跳ね返されてしまうのです。

神経細胞に不都合な油とは

DHAが膜を柔らかくするのに対して、細胞の膜を硬くさせる油が存在します。

膜を硬くしてしまう脂質とは、酸化した油、飽和脂肪酸、オメガ6脂肪酸、トランス脂肪酸です。

酸化した油は、調理済みの総菜、加工食品、菓子類に多く含まれております。揚げ物など、植物油脂を調理加工の段階で加熱してある油脂です。油が酸化されたものを摂取すると、体内に過酸化脂質が蓄積され、細胞の老化、血栓や炎症につながります。

また、スーパーなどで売られている食用油も、加熱されていないと思いがちですが、油を抽出するときに高温処理されているものが多いです。

酸化された油を避けるため、食用油は低温圧搾法でつくられている油を選びましょう。低温圧搾法とは、低温(40℃程度)で、原料となる種子などを押しつぶしたり、すりつぶしたりして、圧力をかけて油を搾り取る方法です。

さらに、酸化されにくい瓶に入っていることが食用油を選ぶポイントになります。酸化が促進される要因は、加熱、空気、光です。それらを遮断できるような濃い緑色や褐色の瓶に入っているものが良いです。

また、飽和脂肪酸とは、肉や乳製品の脂肪などに多く含まれる、常温で固体の脂肪酸です。身体の中で固まりやすい性質があるため、過剰摂取すると血流が悪くなります。

オメガ6脂肪酸も膜を硬くする油として紹介しました。オメガ6脂肪酸には紅花油、コーン油、ゴマ油などが含まれます。

一般に加工食品や総菜、お菓子類に使用されている油(原材料に植物油脂と記載)はオメガ6脂肪酸が多いため、現代人のオメガ6摂取量は過剰気味だとされています。

ただ、オメガ6脂肪酸も身体にとっては必要な油ではあります。細胞の膜にある程度の硬さがないと細胞が壊れてしまいます。しかし、現代人が摂取しているオメガ6脂肪酸の多くは、「酸化した状態のものが多い」として、有害な作用を引き起こすとされています。

そして、トランス脂肪酸とは、化学的に水素添加をして作り出した油であり、あらゆる有害な作用をもたらすとして、国際的にも問題になっています。マーガリン、ショートニングなどにトランス脂肪酸は含まれます。

現代人は膜を硬くしてしまう油を過剰に摂っています。それに対して、膜を柔らかくする油(DHA)の摂取が不足していますオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の理想摂取比率は、オメガ6:オメガ3で1:1とされています。しかしながら、現代人は10:1、人によっては50:1になっているともいわれています。

魚の摂取の減少、さらに加工食品の摂取増加傾向によって、現代人の神経細胞の膜の状態は悪化し、精神疾患の症状が現れるようになるのです。

DHAにより、うつ病が軽減される

ここまで、脳内での神経細胞とDHAの働きがどのようにうつ病をはじめ精神疾患に関わっているのかについて述べてきました。

オメガ3脂肪酸の一種であるDHAが、脳内神経細胞の膜の状態を柔軟にすることで、「やる気が出ない」「何をしていても楽しくない」「眠れない」などのうつ病として診断される症状の軽減に有効だといえます。

冒頭で紹介した国立がんセンターと慶応大チームの研究では、「魚介を多く食べる人は、そうでない人と比べてうつ病の発症率が半減する」ことを紹介しました。魚の摂取がうつ病の予防効果になることはすでに海外で報告されていましたが、日本人を対象にした調査での発表は初でした。

この調査では25年間にわたって魚の摂取量とうつ病の関係を調べ、1日当たりでの魚の摂取量を多い順に4グループに分けて比較しました。その結果、1日平均111gの魚を摂取したグループは、最も摂取しなかったグループ(1日57g)に比べ、うつ病の発症率が57%低いことが調査結果として分かっています。

※この調査では、魚の種類や調理法については明らかにされていません。

また、それぞれ摂取した魚の脂肪酸の摂取量を計算した結果、「オメガ3脂肪酸に分類されるDHA・EPAの摂取量が多いと、うつ病の発症率が低くなる傾向がある」と発表されています。

それでは、どれだけDHA・EPAを摂取すればいいのかというと、それはうつ病の改善に有効だとされているDHA・EPAの1日の摂取量は1000mg」です。イワシなら2尾、サンマなら1尾、サバの水煮缶なら100g食べると摂取できる量です。

ただ、これらDHAも時間経過と共に酸化したり、調理過程でDHA・EPAの量が減少したりするので、今ある症状の改善となればさらに多くの摂取を意識する必要があります。

魚の摂取を意識し、さらに加工食品などに含まれる酸化された油を避けることで、うつ病の症状の改善につなげることができるのです。

EPAも神経細胞に作用するのか

ここまでDHAについて確認してきました。ただ、身体に対して良い働きをもたらす油としては、他にもEPAが広く知られています。

オメガ3のDHAとEPAをセットで捉えていて、効能も同じと認識している方は多いかと思います。そうした場合、脳の神経細胞にはEPAも有効であると思われるかもしれません。実際のところ、EPAもDHAと同じように脳内の神経細胞に作用するのでしょうか。

身体の血液中から脳内に入るには、「血液脳関門」という門番のような働きをするところがあります。そこでは、血液中の物質が脳の中に入っていくのを制限しています。

腸から吸収されるものは、栄養だけでなく食物添加物や化学調味料なども含まれます。こうした異物が脳に作用すると不都合です。そこで、私たちの脳は「全身を循環する血液」と明確に分けられており、変な化学物質が脳に入らないようにされています。私たちの身体と脳を分けているのが、血液脳関門です。

その血液脳関門を通過できるDHAに対し、EPAは通過できません。そのためEPAは脳内の神経細胞に対して直接的に作用することはできないのです。

しかし、EPAも精神疾患予防には効果的だといわれています。それは、EPAはDHAに比べて、血栓を防ぐ働きが強いとされているからです。これにより、脳への栄養不足を防ぐ効果があるのです。

つまり、EPAは血管を強くし、血管の中を流れやすい血液をつくります。その結果、脳へ大切な栄養を運びやすくしてくれるのです。

こうしたことから、DHAもEPAもうつ病や不安障害など精神疾患の症状に対して有効だといえます。

魚からの摂取であれば、DHA・EPAの両方が含まれます。ただ、サプリメントなどからの摂取を考える場合は、DHA・EPAそれぞれの含有量をしっかり確認しましょう。どちらかだけ多量に入っているなどは好ましくなく、あまり差が大きくないものを選ぶといいです。

DHAが精神疾患の改善に効果的な別の理由

さて、DHAとEPAが精神疾患に効果的であるということを解説してきました。

脳の中に入ることができるDHAは神経細胞の膜を柔らかくし、情報をキャッチしやすくすることは述べた通りです。ただ、他にも脳内の神経細胞の再生を促進する働きがあり、さらには脳の炎症を抑える効果が確認されています。

特に、脳の炎症を抑えることは精神疾患に有効であるとされています。脳に起きる「炎症」は徐々に脳の破壊を進行させ、脳から起きるさまざまな症状の引き金になるのです。

炎症とは、身体に何らかの異常が起きたときに、腫れたり発熱したりする反応のことです。

ケガをして赤く腫れたりする身体の炎症は認識しやすいですが、脳の中でもストレスを感じることで炎症は起きます。脳の神経に炎症が起こり、ストレス対抗ホルモンが炎症を抑えきれなかった場合、その状態が続いて慢性の炎症になり、うつ病へと発展します。

炎症を抑えるDHAとは対極的に、炎症を促進させる脂質として、酸化した油、トランス脂肪酸、オメガ6脂肪酸が知られています。これらは、上述で「神経細胞の膜を硬くしてしまう」と紹介した油と同じです。

オメガ3脂肪酸の一種のDHAを摂れば、うつ病などの改善効果を期待できます。ただ、その反対に質の悪い油をたくさん摂ると、うつ病はじめ精神疾患のさまざまな症状を助長させてしまいます。

まとめ

ここまで、精神疾患とDHAについて学んできました。DHAは神経細胞の機能を向上させ、心をコントロールする情報(神経伝達物質)を受け取りやすくします。

うつ病では、セロトニンやドーパミンの分泌量のバランスがとれていないことで症状が起こっています。そのため、これら神経伝達物質の伝達がスムーズに行われるのに必要なDHAの摂取が、うつ病の改善には有効です。

また、脳の炎症を抑えるのもDHAです。炎症が続くことで起こるうつ病の症状の改善に有効です。

その一方で、酸化した油、トランス脂肪酸、オメガ6脂肪酸の過剰摂取は控える必要があります。これらの油は、セロトニンやドーパミンなど脳内情報を受け取りにくくし、脳の炎症を促進させます。

脳の60%が油で構成されているため、脳と心にとっての油の質の見極めは重要です。ここまでの内容から、どのような油が脳と心にとって必要なのか、さらには、避けた方が良いのかが理解できたかと思います。

ただ、オメガ3脂肪酸の一種であるDHAはとても酸化されやすい油です。これはEPAも同様です。いくら脳と心に必要なDHA・EPAを積極的にとっていても、酸化された状態であれば逆効果になります。

つまり、酸化の可能性が低い魚料理(調理したての魚)を食べるようにします。調理してから時間がたつとDHA・EPAが徐々に酸化されてしまうため、うつ病に対しての効果も薄れてしまいます。

また、野菜や果物も共に摂取するといいです。野菜や果物には抗酸化物質が含まれており、抗酸化物質はDHAやEPAの酸化を守ってくれます。

これらを意識して普段から魚の摂取やDHA・EPAのサプリメントの摂取を心掛けましょう。良い油を摂れば、うつ病を含め精神疾患のさまざまな症状の改善が期待できます。