DHA・EPAを摂取する目的として、「頭が良くなるから」と考えている人がいます。「頭が良くなる」とは曖昧な表現ではありますが、DHA・EPAを摂取して実際に記憶力が良くなったり、仕事能力が上がったりすることを期待している人は多いです。

また、ボケ防止や認知症予防としてDHA・EPAをサプリメントで摂取している人もいます。頭が良くなることや認知症予防は、「DHAが脳に直接作用する」ということで、そのような効果が認識されるようになりました。

では実際にDHA・EPAを摂取することで、頭が良くなったり、物忘れ・痴呆を含め認知症予防に効果があったりするのでしょうか。ここではいくつかの論文や研究報告から、DHA・EPAの脳への作用を確認していきます。

脳の状態がどのように「頭の良さ」につながるのか

そもそもDHAが脳に良いと認識されるようになったのは、1989年にDHA研究の世界的な権威であるイギリスのマイケル・クロフォード博士が「日本人の子供のIQが高いのは、魚を食べているからではないか?」と著書の中に記したことで、マスコミを通して大々的に広がったことがきっかけです。

そこから、DHAと脳についての研究はますますされるようになり、「DHAを摂取すると頭が良くなる」という裏付けが発表されるようになりました。

一般的にいわれる「頭が良い」とは、記憶力がよい、思考力がある、頭の回転が速いといった状態が当てはまります。では、記憶をしたり、考えたりするとき、脳の中のどこが働いているのでしょうか。

それは、神経です。

脳の中には、情報を伝達するための神経がたくさん張り巡らされています。その神経細胞の働きによって、私たちは考えることができ、行動することができるのです。つまり、「頭の良さ」は神経細胞の状態が大きく関わってきます。

脳全体には神経細胞が千数百億個あるとされており、一つ一つの神経細胞同士が情報を伝達し合っています。神経細胞から神経細胞へ情報を伝達する物質を神経伝達物質と呼び、神経伝達物質の種類によって私たちの感情の違いが生まれます。

神経伝達物質は快感、緊張、不安、イライラ、やる気、リラックス、眠気、興奮など種類によって神経細胞へ運ぶ情報が変わってきます。例えば、快感はドーパミンという神経伝達物質によって伝達され、イライラはノルアドレナリンという神経伝達物質が伝達しています。

神経細胞を島、神経伝達物質を船だと例えると、島から島へ感情や行動に結びつく情報を乗せた船が行き来しているとイメージすると分かりやすいです。神経伝達物質は100種類以上ありますが、これらがバランス良く分泌されていることも、「頭の良さ」に関わってきます。

また、脳の中には神経細胞以外にグリア細胞という重要な細胞が、神経細胞の10~50倍存在します。グリア細胞は神経細胞に栄養を運んだり、神経伝達物質から情報を受け取ったりと、神経細胞と同じように重要な働きをします。

このように、「頭の良さ」には神経細胞、神経伝達物質、グリア細胞それぞれの状態がとても重要になってきます。そのポイントを以下にまとめます。

①脳内で神経伝達物質をバランスよく作ることができる

②分泌された神経伝達物質をしっかりと神経細胞が受け取ることができる

③グリア細胞を増やし、情報伝達をスムーズにする

では、実際に①②③の状態にするには、どのようにすればよいのか確認していきます。

「頭の良さ」とDHA・EPA(魚油)の関係

ここまで「頭の良さ」につながる脳の状態について述べてきました。実際に、上で述べた「①の神経伝達物質をバランスよく作ることができる」から確認していきます。

神経伝達物質をバランスよく作る

神経伝達物質は私たちが食べたものの栄養から作られています。食事中のたんぱく質(肉、魚、卵、豆製品など)が胃で消化されるとアミノ酸になります。アミノ酸の中のトリプトファンが血液によって脳内に運ばれ、脳内でトリプトファンに鉄、ビタミンB6、葉酸、ナイアシンという栄養素が結合されることで神経伝達物質は作られます。

これらの栄養素によって作られる神経伝達物質はセロトニンといわれますが、それぞれの神経伝達物質によって関わる栄養素は変わってきます。そして、バランスよく各種の神経伝達物質を作るためには、様々な栄養素が必要となるため、米、魚、卵、野菜、海藻などまんべんなく食品を食べることが重要です。

そして、食べた食品の栄養を脳内にしっかり運ぶには、血液の流れ(血流)が鍵を握ります。血液の流れが良い状態でないと、脳内へスムーズに栄養を運ぶことができず、神経伝達物質が作られにくくなります。DHA・EPAは血管の壁と赤血球の膜をしなやかに保つことで血流を良くします。

脳の中で直接作用できるのはDHAだけですが、体内の血液の流れに関してはDHA・EPA両方の働きが必要です。魚料理やサプリメントからDHA・EPAをしっかり補うようにしましょう。

神経細胞が神経伝達物質をしっかり受け取る

そして、作られた神経伝達物質は神経細胞でスムーズに受け取られることで情報として受理されます。「②の神経細胞が神経伝達物質をしっかり受け取ることができる」仕組みを確認していきます。

脳の中は6割が油でできているといわれていますが、それは神経細胞の膜が油で構成されているからです。神経細胞の膜に存在する脂肪酸の中に、DHAが多いほど柔軟な膜となります。神経細胞の膜が柔軟であれば、送られてきた情報をしっかり受け取ることができるのです。

逆に、神経細胞の膜が硬い状態であると、情報を受け取りにくくなります。そのことで、感情コントロールが難しくなり、思考と行動が結びつきにくくなります。細胞膜を硬くする油はオメガ6脂肪酸といわれ、サラダ油や加工食品に多く含まれています。

神経細胞の膜を柔軟にして、思考力を高めて回転が速い脳にするには、DHAの摂取を心掛けるとともに、オメガ6脂肪酸の摂取を控えることが重要です。

グリア細胞を増やす

そして、「③のグリア細胞を増やす」には、「普段の生活から脳を使う」ことがポイントになります。グリア細胞は加齢に関係なく増殖させることができます。本を読んだり、いつもと違う道を使ってみたり、脳に刺激を与え続けることでグリア細胞は増殖します。

グリア細胞を増殖させることで、神経細胞はしっかり働くことができて、脳機能の向上につながります。

さらに、記憶力の良さに関係している部分は、脳の中でも海馬(かいば)と呼ばれています。日常的な出来事や勉強で覚えたことは海馬の中でいったん整理整頓され、その後に大脳皮質に貯められます。

新しい記憶は海馬、古い記憶は大脳皮質の状態が大きく関わっているということです。交通事故などにあい、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を起こした場合、「新しい記憶はなく昔の記憶は残っている事例」がいくつかあります。それは、海馬が大きなストレスにより縮小したことが原因とされています。

海馬は他の脳内に比べて、2倍以上のDHAが存在しているといわれています。そのため、「記憶力を高めるためにはDHAの摂取が効果的である」と数多くの研究から立証されています。

また、海馬はストレスだけでなく酸素不足にも影響を受けます。酸素は血液によって脳内まで運ばれるため、酸素の運搬にも血流が重要になります。DHA・EPAを摂取して、脳の隅々まで酸素を運ぶことができる血行をつくるようにしましょう。

このように、DHA・EPAは脳内の細胞や細胞膜、血行の状態を良好にするために欠かせない脂肪酸であることが分かります。魚料理を毎日食べることが難しい場合は、サプリメントから補うことも手段の一つであります。

認知症(アルツハイマー病)と栄養の関係

認知症とは、「脳の何らかの病気によって脳内の神経細胞が多量に死滅して、脳が委縮し脳の働きが低下した状態」のことです。老化によるボケとは異なり、認知症による痴呆・物忘れは病気です。

認知症で物忘れを引き起こす原因としては多説ありますが、「脳の炎症」が大きく関わっているとされています。

ストレスを受けるとストレス対抗ホルモンが分泌され、長い期間ストレス対抗ホルモンが出続けていると、脳の神経細胞は殺されてしまいます。特に影響を受ける部分は、海馬の神経細胞です。

ここでいうストレスとは仕事や人間関係によるストレスだけでなく、栄養の偏り、睡眠不足、運動不足、寒暖、大気汚染なども含みます。こういったストレスを長期間受けていると、身体や脳のあちらこちらに炎症を起こします。

脳にできた炎症は、神経伝達物質の働きを阻害し、感情のコントロールをしにくくなります。

つまり、脳が委縮することで起こる認知症(アルツハイマー病)は、長年のストレスによる脳内炎症と、ストレス対抗ホルモンによる神経細胞破壊が原因となっているのです。

・DHAやEPAが炎症を抑える

炎症は摂取する脂肪酸によって、促進されたり抑制されたりします。炎症を促進する脂肪酸はオメガ6脂肪酸です。サラダ油や加工食品に多く含まれている油であり、現代人はオメガ6脂肪酸の過剰摂取が問題となっています。

特に、外食やコンビニ食が多い場合、オメガ6脂肪酸の1日に摂取すべき目安量を大幅に超えてしまいます。例えば、コンビニの5個入り唐揚げを食べただけで、「炎症を起こしにくくするため、目安としたい(抑えておきたい)オメガ6脂肪酸の摂取量」の2倍量を取り入れてしまうことになります。

朝食・昼食・夕食ともに、サラダ油を使用している料理を食べ、さらに間食にスナック菓子や菓子パンなどを食べるという食生活を送っていると、無意識のうちに脳の炎症を起こし続けている可能性があります。

逆に脳の炎症を抑制する脂肪酸はオメガ3脂肪酸であるため、魚油に含まれているDHA・EPA、エゴマ油などに含まれるαリノレン酸の摂取が必要です。

現代人の食生活はオメガ6脂肪酸の過剰摂取に対し、オメガ3脂肪酸(DHA・EPAなど)は摂取不足の人が多いです。オメガ3脂肪酸は、イワシであれば2尾、サンマなら1尾、ブリ切り身であれば1枚を毎日食べなければ1日当たりの摂取目安量を補えません。

脳の炎症をおさえて認知症・ボケを予防するためには、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の摂取バランスがとても重要になってくるのです。

・ビタミンCの摂取でストレスに対抗しやすくする

そして、過剰なストレス対抗ホルモンによる神経細胞の破壊を抑制するためには、ストレス対抗ホルモンの分泌管理が必要です。ストレス対抗ホルモンは副腎という部分で分泌が管理されています。

ストレス対抗ホルモンは、炎症を抑制し、ストレスに対抗できる身体を作り上げてくれるため、出されるべきときにはしっかり分泌されなくてはいけません。しかし、ストレス過剰となり、ホルモンが出すぎて調節できない状態になることが脳には問題なのです。

そのため、ホルモンの分泌管理をしている副腎をしっかり機能できる状態にしておく必要があります。副腎は身体の中でも、最もビタミンCを消費する臓器だとされています。普段の食事から野菜や果物を毎食摂り、ビタミンCを常に補うようにしましょう。

このように、脳の炎症や神経細胞の破壊を抑制して物忘れ・痴呆を予防するためには、脂肪酸の摂り方とバランスの良い食事が必要になります。オメガ6脂肪酸(サラダ油)の摂取を控えることを意識するとともに、魚料理やサプリメントからオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)の積極的摂取を心掛けましょう。

脳内の酸化ストレスを減らす

脳内の神経細胞がしっかり働き、「頭の良さ」の維持や認知症予防には、「脳内の酸化ストレスを減らすこと」も重要なポイントになります。

「酸化ストレスが高い状態」とは、体内で酸素から変化した活性酸素が多くなり、細胞が傷つけられ老化や病気につながりやすい状態といえます。活性酸素が脳内で増えると神経細胞は破壊され、感情のコントロール不能や疲れ、うつ病、認知症(痴呆・物忘れ)などの原因になります。

また、細胞膜は脂肪酸でつくられているため、活性酸素が多いと細胞膜の脂肪酸が過酸化脂質となり、細胞膜の機能を低下させてしまいます。その結果、神経細胞は運ばれてくる情報を受け取りにくくなり、脳のあらゆる病気を引き起こします。

このように脳の機能低下を引き起こす活性酸素は日々の生活習慣の改善によって発生を抑えられます。活性酸素を増やす原因は、睡眠不足、運動不足、酸化した食品の摂取、紫外線、過度のストレスなどです。

特に油は酸化しやすい食品です。魚やサラダ油、惣菜などに含まれている油は、加熱してから時間が経っていると、酸化した状態となっています。そのように酸化した油を摂取していると、体内では過酸化脂質を生成して、体内でも脳内でも細胞を傷つけます。

DHA・EPAは脳内にとって欠かせない脂肪酸ですが、酸化した状態で摂取すると、逆に脳にとって有害となってしまうのです。

体内や脳内の酸化ストレスから身を守るには、睡眠をしっかりとり、運動習慣をつけるとともに、抗酸化物質を日々の食事から補う必要があります。野菜や果物、魚介類などに含まれる抗酸化物質は、活性酸素による酸化ストレスを減らしてくれます。

特に、魚料理やサラダ油を使った料理を食べる際は、ともに野菜や果物もしっかり摂取することを心掛けましょう。

DHA・EPAサプリメント摂取と脳機能についての研究

ここまで、「神経細胞の働きを良くして、脳機能アップと認知症予防のためにはDHA・EPAの摂取が有効である」ことを確認してきました。

今まで世界中の研究機関で、DHA・EPAのサプリメントと脳機能について検証する研究が数多くされてきました。そのような研究では実際にDHA・EPAサプリメント摂取による脳への影響がはっきりと出ているのでしょうか。

米国立保健研究所(NIH)が高齢者約1000人を対象に行った研究では、「認知機能が正常な人の中でDHA・EPAサプリメントを常用していた人は、常用していない人に比べて認知機能の低下が抑制されている」と、DHA・EPAの効果が確認されました。

さらにMRI(身体を輪切りに診断できる装置)の結果では、DHA・EPAサプリメントを常用していた人は脳の萎縮も軽減していることが明らかにされています。

しかし、「DHA・EPAサプリメントの効果は見られない」という内容の論文もいくつかあります。例えば、7~9歳の小児362名を対象にDHAサプリメントを16週間摂取したグループと摂取しなかったグループに分けて、言語能力、作業能力、行動評価を比較したところ、2グループに差が表れなかったという研究結果があります。

このように、DHA・EPAサプリメントや魚の摂取と脳機能について検証した論文はたくさんあり、「効果があった」というものもあれば「効果がなかった」というものもあるのが事実です。

しかし、このような調査ではサプリメント摂取期間が2~4ヶ月という短い期間での調査が多く、血液の脂肪酸組成や脳の神経細胞まで変化させるには摂取期間が短いため、効果に表れにくかったという見方もできます。

また、上述にもあるように、DHA・EPAは酸化しやすく、体内で酸化してしまうと身体にとっては逆効果になります。「体内に抗酸化物質(ビタミンやアスタキサンチンなど)が不足して、活性酸素が増えた状態」でDHA・EPAサプリメントを摂取しても、過酸化脂質になってしまう可能性が高いです。

その結果、DHA・EPAサプリメントは血液にも脳にも有効な働きがみられなくなるのです。DHA・EPAサプリメントを摂取するのであれば、野菜や果物も十分に摂取して、体内の活性酸素を減らすことが条件になります。

さらに、DHA・EPAと逆の働きをするオメガ6脂肪酸を多量に摂取していては、脂肪酸全体のDHA・EPA割合は少なくなります。

なぜなら、体内でDHA・EPAとオメガ6脂肪酸は同じ場所に存在するため、場所を確保するために2つの脂肪酸は椅子取りゲーム状態となっています。そのため、DHA・EPAサプリメントを摂取するのであれば、オメガ6脂肪酸(サラダ油など)の摂取を控えなければ、血液や脳に変化は表れにくいです。

また、神経伝達物質をつくりだしたり、脳の神経細胞を機能させたりするには、DHA・EPAだけではなく他のたんぱく質やビタミン、ミネラルなどの栄養素も必要になります。そのため、普段の食事のバランスが整っていなければ、DHA・EPAサプリメントのみ摂取しても脳に対しては効果を感じにくいです。

DHA・EPAは体内にも脳内にも欠かせない栄養素です。しかし、サプリメントでDHA・EPAのみ摂取していても効果が感じられないという場合は、オメガ6脂肪酸との割合や、体内酸化度合い、他の栄養素の過不足が背景にある可能性が高いです。

世界中にさまざまな結果の論文が発表されていますが、その結果を鵜呑みにせず、まずは食生活の基本から整えるようにしましょう。その上でDHA・EPAサプリメントを摂取すれば、効果を感じやすくなります。

まとめ

「頭の良さ」や認知症予防には、脳内の神経細胞と神経伝達物質の状態が鍵を握っています。神経細胞や神経伝達物質を形成するには、さまざまな栄養が必要ですが、その栄養を脳内にしっかり届けるためには、血液の流れが良いことが重要です。

DHA・EPA(魚油)は血管や赤血球の膜をしなやかにすることで血行を良くし、栄養や酸素を脳内に運びやすくします。

また、神経細胞の膜が柔軟であることで、運ばれてきた情報を受け取りやすくします。神経細胞同士で受け渡ししている情報がしっかりキャッチできなければ感情のコントロールが難しく、行動能力にも影響がでてきます。

神経細胞の膜を柔軟にするには、DHA・EPAを魚やサプリメントから摂取するとともに、オメガ6脂肪酸(サラダ油など)の摂取を控える必要があります。

さらに認知症予防やボケ防止には脳内の炎症を慢性化させないことがポイントになります。細胞膜の柔軟化に必要な脂肪酸の摂取方法と同じになりますが、炎症を促進させるオメガ6脂肪酸(サラダ油など)を控え、DHA・EPAの積極的摂取を心掛けましょう。

DHA・EPAの摂取は脳内機能アップに効果的ではありますが、サプリメントなどを摂取して効果を感じられるのは、普段の食生活が整っていることが条件です。さらに、食生活だけでなく睡眠習慣や運動習慣から見直し、活性酸素の発生を少なくすることで、摂取したDHA・EPAの酸化を防ぎましょう。

そして、食習慣では野菜、海藻、豆製品、魚介類、発酵食品など食品をまんべんなく食べることからバランスを保ち、細胞がつくりやすい状態に体内を整えておきましょう。このように生活習慣を整えた上で、DHA・EPAサプリメントを摂取すると、脳への効果を実感しやすくなります。