ADHD(注意欠如多動性障害)は「不注意(注意力が足りない)」「多動性(じっとしていられない)」「衝動性(考える前に行動してしまう)」の3つの症状が伴っている発達障害のひとつです。子供で20人に1人、大人では40人に1人の割合で生じるとされています。

仕事や日常生活、コミュニケーションに支障をきたすにも関わらず、周りからの理解は得られず、悩んでいる人は多いです。

「ADHDなどの発達障害は先天性(生まれつき)の神経の問題であって症状の改善が難しい」と認識されがちです。ただ、日々の食事を見直すことで症状が緩和する部分もあります。

ここでは、ADHDの症状と脳内のメカニズムについて確認していきます。また、「DHA・EPA(魚油)がADHDに効果的なのか」について述べていきます。

ADHD(注意欠如多動性障害)の症状

文部科学省ではADHDの定義を以下のように示しています。

「ADHDとは、年齢や発達に不釣り合いな注意力、及び(又は)衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、仕事や社会生活、学業に支障をきたすものである。」

文部科学省では「7歳以前に症状が現れる」とされていますが、アメリカ精神医学会のマニュアルでは診断年齢を12歳とされています。また、大人になってから診断される場合も多いのがADHDの特徴です。

ではADHDの3つの症状をそれぞれ確認します。

①不注意(注意力が足りない)

・整理整頓や片付けが苦手

・忘れ物、なくし物が多い

・集中力がない(一方で自分の好きなことに対しては集中し過ぎ、周りがみえなくなる)

・やりかけのことをほったらかしにする

・気が散りやすい

②多動性(じっとしていられない)

・落ち着いてじっと座っていられない

・静かにすべき場所で静かにできない

・そわそわして体が動いてしまう

③衝動性(考える前に行動してしまう)

・会話の流れを気にしないで、思ったことをすぐに発言する

・順番を待てない

・気に障ることがあると乱暴になる

・他人の邪魔をしたり、他人の行動をさえぎって自分がやったりする

ADHDは、これら3つの症状のうちどれかが強く出たり、3つともが混合して現われたりします。ただ、幼児では成長過程でこれらのような行動をするため、幼児のうちからADHDの診断は難しいとされています。

ADHDの原因:ADHDは遺伝性なのか

ADHDの症状が起こる原因はまだはっきりと解明されていません。「遺伝的要因による脳の機能障害」と「環境的要因(生活環境によるもの)」があるとされており、さまざまな研究が重ねられています。

ADHDの症状を引き起こす原因の有力説として考えられているのは「脳の神経伝達の異常」です。脳の中に神経細胞は千数百億個あるといわれています。神経細胞は主に電気信号のやり取りをしていて、情報を伝達したり受け取ったりしています。

このように神経細胞は神経伝達物質といわれるセロトニンやドーパミンなどを分泌したり受け取ったりすることで、情報を伝達しているのです。セロトニンやドーパミンが神経細胞にしっかり受け取られることによって、私たちの身体や心には感情や動作としてスムーズに表れます。

神経伝達物質は種類によって運ぶ情報が違っています。例えばドーパミンは「やる気・爽快感・快感」につながる情報を運びます。また、ノルアドレナリンは「不安・緊張」などを運び、GABA(ギャバ)は「穏やかさ・落ち着き」などを神経細胞へ運びます。

セロトニンは「幸せホルモン」として有名ですが、セロトニンは他の神経伝達物質の分泌量を調整するため、セロトニンが足りていることで感情をコントロールしやすいのです。

ADHDでは、「神経伝達物質のうち、ドーパミンが受け取りにくくなっている」と考えられています。ドーパミンは脳の中の前頭葉が正常に働くために必要な神経伝達物質です。私たちが物事を整理整頓したり論理的に考えたりすることができるのは、前頭葉の働きがあるからです。

また、集中力の持続や行動のコントロールなどにも前頭葉の働きは欠かせません。ADHDの症状がある人は、ドーパミン不足による前頭葉機能が低下しているため、不注意・多動性・衝動性という症状が出てしまうと考えられているのです。

さらに、ADHDの人の脳の画像診断より、平均よりも前頭葉の血流量が少ない傾向があることが分かっています。血流量が少ないということは、それだけ脳内細胞に栄養や酸素が行き渡りにくい状態になります。その結果、前頭葉の働きが低下するということになるのです。

まだ明確なADHDの原因は解明されていませんが、このような先天性(生まれつき)の機能異常と、環境的な要因が重なりあって症状につながっています。

そのため、家族の中でADHDの症状がある人が複数いる場合は、遺伝的な体質に加え、生育環境(食習慣など)が似ている影響も大きいとされています。

ADHDの投薬治療

ADHDに適用が認められている薬は3つあります。その中の1つであり、ADHD投薬治療の主流といわれている「コンサータ」という薬があります。

コンサータは、ADHDの人が脳内で受け取りくいとされている神経伝達物質のドーパミンに作用します。脳内で作られて分泌されるドーパミンをキャッチしやすくし、結果的にドーパミンを充足することにより前頭葉の働きを上げる薬です。

コンサータで効果が見られない場合は「ストラテラ」という薬が処方される場合が多いですが、ストラテラは神経伝達物質のうち、ノルアドレナリンを充足させます。ノルアドレナリンも前頭葉の働きには欠かせない神経伝達物質であるとされているからです。

このように「脳にどのような作用がある薬が処方されるか」を確認することで、自分にはどういった神経伝達物質を脳内で作用させれば良いかが分かります。

では、ADHDの症状緩和に必要だとされているドーパミンやノルアドレナリンは薬で補う他に方法はないのでしょうか。

ADHDの症状緩和に必要な栄養素

ADHDの症状は神経伝達物質のドーパミンの作用が低下していることが分かりました。ただ、投薬治療としてドーパミンを薬で増やすことは可能でも、長い間薬を飲むことに抵抗がある人も多いです。

本来ドーパミンは食べたものの栄養から脳内で作られています。

このように肉や魚のたんぱく質が元となり、ドーパミンは合成されます。肉や魚のたんぱく質は胃に入るとアミノ酸に分解されます。複数あるアミノ酸のうち、フェニルアラニンというアミノ酸が脳内に入り、そこに鉄・葉酸・ナイアシン・ビタミンB6という栄養素が加わってドーパミンは作られます。

作られたドーパミンは神経細胞の受容体(運ばれてきた情報をキャッチするところ)に取り込まれることで、初めてドーパミンとしての作用を発揮します。

つまり、この図のようにドーパミンなどの神経伝達物質と神経細胞にある受容体がしっかり合わさらなければ、情報が伝わらないのです。その結果、ドーパミンの作用不足により前頭葉の機能が低下し、ADHDの症状として表れやすくなります。

ドーパミンをしっかり合成して作用させるには、ドーパミンの元になる栄養素を不足することなく摂り入れる必要があります。ドーパミンの材料として「アミノ酸(フェニルアラニン)、鉄、葉酸、ナイアシン、ビタミンB6」があると述べましたが、これだけの栄養素を補うためにはあらゆる食品を摂取する必要があります。

さらに栄養素は、ビタミンチーム、ミネラルチームとして、チームで働いているため、ドーパミンになる材料以外にもほかのビタミン・ミネラルの摂取も必要です。穀物、肉、魚介類、卵、豆製品、発酵食品(納豆やヨーグルト)、野菜、海藻、果物、きのこなど、まんべんなく食品を摂ることが重要です。

ドーパミンの作用の発揮には「材料となる栄養素を摂取する」「神経細胞の受容体でしっかりドーパミンをキャッチする」などの必要があるのです。

では、神経細胞の受容体でのキャッチにはどのような栄養素が関わっているのでしょうか。

ADHDの症状緩和に必要なDHA・EPA

神経細胞の受容体でドーパミンをしっかり受け取るには、受容体の膜が柔軟であることが重要です。受容体は膜で覆われていて、その膜が運ばれてきたドーパミンの形にピタッと形を合わせられる状態であれば、ドーパミンから情報がしっかり伝わります。

ADHDの症状がある人は、「受容体でドーパミンがキャッチされずに、神経細胞まで戻されてしまう(再取り込み)」という傾向があるとされています。

神経細胞の受容体の膜を柔軟にして、運ばれてきたドーパミンを受け取りやすくするには、膜を構成する油の種類がポイントとなります。受容体の膜の中にDHA・EPA(オメガ3脂肪酸)がたくさん存在していれば、膜は柔軟となります。

逆に受容体の膜の中にオメガ6脂肪酸(サラダ油などに多く含まれる)が多く存在していると、膜は硬くなり、情報を受け取れません。

DHA・EPAは魚(特に青魚)に含まれる脂肪酸であり、厚生労働省からは1日に摂取すべき目安量が示されています。DHA・EPAはオメガ3脂肪酸に分類される脂肪酸ですが、オメガ3脂肪酸として1日2.1g(30~49歳男性の場合)、DHA・EPAとして1日1g以上の摂取が必要とされています。

1日の目安量を補うには、イワシであれば2尾、サンマなら1尾、ブリやサバは切り身1枚摂取する必要があります。マグロには「DHA・EPAが豊富に含まれている」とイメージされやすいですが、実はマグロの赤身にはあまり含有されていません。1日にマグロ1.2kg食べなくては必要なオメガ3脂肪酸の量を補えないのです。

このように魚を毎日摂取していると、神経細胞の受容体の膜は柔軟になり、ドーパミンが作用されやすくなります。その結果、集中力や注意力の向上につながります。

一方でサラダ油の過剰摂取は避けなくてはいけません。サラダ油は調理の際に使う調理油だけでなく、加工食品やコンビニ食品、お菓子などに多く含まれています。商品の裏に表示されている原材料を確認し、「植物油脂」と記載されていれば、オメガ6脂肪酸が多く含まれていることが分かります。

また、脂肪酸の種類は血液の流れにも影響します。DHA・EPAを含むオメガ3脂肪酸は血管や赤血球をしなやかにするため、血液の流れを良好にします。逆にオメガ6脂肪酸は血液を流れにくい状態にします。

食事によって食べたものの栄養が腸から吸収されると、血液に運ばれ脳内まで届けられます。そのため、血流が良好な状態でないと、せっかく摂り入れた栄養もしっかりドーパミンを作る材料として脳内に運ばれないのです。

ADHDの症状を緩和するためには、魚料理を毎日意識的に食べ、サラダ油の摂取を極力控えることがポイントとなります。魚料理の毎日の摂取が難しい場合は、サプリメントからのDHA・EPA摂取もオメガ3脂肪酸を補う手段の一つになります。

ADHDの症状を悪化させるもの

ここまでADHD症状緩和に必要な栄養素について確認してきました。一方、ADHDの症状を悪化させてしまう食べ物もあります。それは主に以下のものです。

  • 砂糖や小麦製品(お菓子、清涼飲料水、パン、麺など)
  • 酸化油脂
  • グルタミン酸ナトリウムが含まれているもの(加工食品、コンビニ食品など)

砂糖に含まれる糖質や小麦粉に含まれるグルテンは腸粘膜に炎症(傷)を引き起こしやすいです。同じように、酸化した油脂(油調理後、時間が経っているもの)も身体中の炎症の原因となります。食事から摂り入れた栄養素は腸粘膜が正常な状態でないと、しっかり脳内まで運ばれません。

また、身体中に炎症が起きている状態であると、血液の流れが悪くなり、酸素と栄養の運搬がしにくくなります。身体中に炎症があるということは、脳内にも炎症を起こしているため、脳内での情報伝達はしにくくなります。

米国の大学による研究では、「砂糖を含むソフトドリンクを飲む本数が1本増えるごとに、注意欠陥・多動性のリスクが14%増加する」という調査結果が報告されています。さらに「中でもエナジードリンクの場合はリスクが66%増加する」と砂糖とADHDの関係性について述べられています。(1649人対象・平均年齢12.4歳)

ソフトドリンクといえば、甘い炭酸水やスポーツドリンクをイメージしやすいかもしれませんが、「○○水」として水に風味がつけてあるだけのようなドリンクにも糖分は入っています。ヘルシーそうなドリンク、果汁ジュースにも注意が必要なのです。

また、グルタミン酸ナトリウムとは「うま味成分の添加物」のことです。下の写真のように加工食品やコンビニ食品、お菓子、調味料などの多くの商品にグルタミン酸ナトリウムは含まれています。商品の原材料を見て「調味料(アミノ酸など)」「酵母エキス」と記載されているものにグルタミン酸ナトリウムは含まれています。

上の写真は納豆のパックですが、「健康食品」というイメージがある納豆でも、付属しているタレにはたくさんの添加物が含まれています。例えば、グルタミン酸ナトリウムがうま味成分として入っています。

グルタミン酸ナトリウムは、グルタミン酸という「アミノ酸から作られた化学調味料」です。脳に直感的に「うまい!」という刺激を与えるため、グルタミン酸ナトリウム入りの加工食品ばかり日々食べていると、自然の食品のうま味に対して物足りなさを感じてしまいます。

グルタミン酸は脳内において、興奮や記憶力に関わる神経伝達物質として働きます。そのためグルタミン酸は本来であれば脳内でとても重要な働きをします。また、通常グルタミン酸は脳内でGABAという心を穏やかにする神経伝達物質に変換されます。

しかし、ADHDの症状がある人は、「グルタミン酸 → GABA」への変換がされにくく、グルタミン酸が過剰になってしまうため、脳の興奮性が増すとされています。

また、血液から脳へ運ばれる際、「血液脳関門」という血液から脳内へ入ることのできる物質を制限する関門があるのですが、グルタミン酸はその血液脳関門により脳内へ入ることはできないとされていました。

しかし、いまでは「グルタミン酸も血液脳関門を通過できる」といわれています。つまり、グルタミン酸ナトリウムの過剰摂取が脳の興奮性を刺激することで、ADHDの症状を強くしている可能性があるのです。

ADHDの症状がある場合は、極力「調味料(アミノ酸など)」や「酵母エキス」と記載されている加工食品やお菓子の摂取は避け、自然な食品を摂るように心掛けましょう。

加工食品やお菓子には酸化油脂やオメガ6脂肪酸、砂糖、小麦粉も多く含まれているため、それらを控えることでADHDの症状を助長させてしまう食べ物を全て減らすことができます。

まとめ

ここではADHDの症状や原因とされている内容、症状を緩和する食品、悪化させる食品について述べてきました。

ADHDの確かな原因はまだ解明されていませんが、「食べた物が、脳内の神経伝達の状態に大きく関わっている」ことはADHDの症状を緩和する上で意識すべき内容といえます。

脳内の神経伝達物質ドーパミンを作用させるためには、まんべんなく食品を取り入れることが基本となります。

また、注意力や集中力に関係するドーパミンが受け取り側の神経細胞でしっかりキャッチされなければ、情報は伝達されません。運ばれてきた情報をしっかりキャッチするには、神経細胞の膜の柔軟度が鍵を握ります。

神経細胞の膜にDHA・EPA(オメガ3脂肪酸)が多く存在していれば、ドーパミンを受け取りやすい膜となります。逆にサラダ油(オメガ6脂肪酸)が多く存在していれば、受け取りにくい膜となります。

さらに、糖、小麦製品、酸化油脂、グルタミン酸ナトリウム(化学的うま味調味料)の摂取はADHDの症状を悪化させます。

普段の食事から加工食品やお菓子、精製飲料水の摂取を控え、魚や野菜、さらにはDHA・EPAの摂取を心掛けましょう。子供や大人の発達障害として知られるADHDの症状には、栄養状態が大きく影響しているのです。